創業110年超、富士宮「さ の 萬」が仕掛ける“引き算の美食”とは?2026年、世界が熱視線を送るドライエイジングの真実
さ の 萬は、大正3年の創業以来、静岡県富士宮市から日本の食肉文化を牽引し続けてきたパイオニアだ。単なる街の精肉店ではない。日本で初めて本格的なニューヨークスタイルの「ドライエイジングビーフ(乾燥熟成肉)」を確立したその挑戦の歴史は、今や国内外の美食家たちを惹きつけてやまない。
気候変動や飼料高騰といった逆風が吹き荒れる2026年の食肉業界において、独自の哲学を貫くさ の 萬の存在感はますます高まっている。彼らが追求するのは、単なる高級ブランド牛の横並びではない。肉本来の旨味を引き出す技術と、生産者との深い信頼関係がもたらす「本物の価値」だ。
なぜ今、世界は「ドライエイジング」に回帰するのか

かつて日本の牛肉市場を席巻したのは、霜降りの美しさを競う「A5ランク」神話だった。しかし、消費者の舌は確実に変化している。脂の甘みではなく、赤身肉が持つ本来の濃密な旨味と香り。それらを極限まで高めるのが、温度と湿度、そして風を厳密に管理するドライエイジング技術だ。
ニューヨークのステーキハウスで主流だったこの手法を、日本の気候風土に合わせてローカライズした功績は大きい。ただ寝かせるだけではない。カビや微生物の働きをコントロールし、肉自体が持つ酵素でタンパク質をアミノ酸へと分解していく。そのプロセスは、まるで上質なワインやチーズの熟成のようだ。
富士山の麓で生まれる「萬幻豚」という奇跡
牛肉だけではない。彼らを不動の地位へと押し上げたもう一つの主役が、オリジナルブランド豚「萬幻豚(まんげんとん)」である。富士山の豊かな自然環境と、厳選された飼料で育つこの豚肉は、一般的な豚とは一線を画す脂の軽さと肉質の柔らかさを誇る。
「昔ながらの、本当においしい豚肉を食べてもらいたい」という想いから開発された萬幻豚。その味わいは、昭和初期の豚肉が持っていたコクと旨味を現代に蘇らせたものだ。しゃぶしゃぶで食せば、アクが出ず、脂身が口の中で文字通りとろける感覚を体験できる。
2026年の食糧危機に立ち向かう、サステナブルな肉作り
2026年現在、世界の食肉産業は大きな転換期を迎えている。異常気象による穀物価格の高騰、そして温室効果ガス排出への懸念。こうした課題に対し、無駄を徹底的に排除する姿勢が求められている。骨付きのまま熟成させ、トリミング(削ぎ落とし)を行うドライエイジングは、一見するとロスが多いように思えるかもしれない。
だが、その削り落とされた部分すらも無駄にはしない。堆肥化や他製品へのアップサイクルなど、循環型の仕組み作りが急ピッチで進んでいる。命をいただくからこそ、その価値を最大化して消費者に届ける。この倫理的なアプローチこそが、現代のグルメたちに支持される理由だ。
職人の「勘」を科学する:熟成庫の秘密
熟成庫の扉を開けると、ナッツやチーズを思わせる独特の芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。ここで行われているのは、長年の経験に基づく職人の勘と、最新のデータ分析の融合だ。風速、湿度、温度のわずかな変化が、肉の仕上がりを左右する。
季節によって異なる日本の湿度に対応するため、独自のセンサー技術を導入。肉の表面に付着する有用菌の動きを可視化することで、常に均一で最高品質の熟成肉を作り出すことに成功した。伝統に甘んじることなく、常に科学的なアプローチで進化を続ける姿勢が、競合他社との圧倒的な差を生み出している。
高級志向から「本質志向」へシフトする日本の消費者
モノが溢れる時代だからこそ、人々はストーリーを求める。ただ高いだけの肉を買う時代は終わった。誰が、どのように育て、どうやって仕上げたのか。そのプロセス全体に納得し、共感した上で対価を支払う消費者が増えている。
特に都市部の若い世代を中心に、週末のディナーや特別な日のギフトとして、ストーリー性のある食材を選ぶ傾向が顕著だ。自宅での食事をワンランク上の体験に変えてくれる特別な肉。それを提供するブランドとして、確固たる地位を築いている。
地域密着とグローバル発信が織りなす、次の100年
静岡県富士宮市というローカルに根ざしながらも、その視線は常に世界を見据えている。地元の観光資源や他の食材生産者とのコラボレーションを通じ、地域全体の活性化にも寄与してきた。地方発のイノベーションが、日本全国、ひいてはアジアの食文化に影響を与え始めている。
次の100年に向けて、彼らが描く未来図は明るい。単なる「肉屋」の枠を超え、日本の豊かな食文化を世界に発信するメディアとしての役割も担い始めている。本物を追求し続けるその歩みは、これからも止まることはないだろう。 (出典: さ の 萬(Yahoo!ニュース))