創業270年の革新。大垣の老舗「つちや」が挑む伝統和菓子のグローバルシフトと気候変動への回答
つちや 大垣の本店が構える美濃地方は、古くから良質な柿の産地として知られてきた。2026年現在、地球温暖化に伴う原材料の確保難や、若者の和菓子離れといった逆風が吹き荒れる中、この老舗が打ち出した「次世代への継承策」が今、全国の和菓子業界から熱い視線を集めている。単なる伝統の維持にとどまらない、彼らの新たな挑戦とは何か。
かつて松尾芭蕉が「奥の細道」の旅を終えた地として知られる水の都で、多くの旅人の喉と心を潤してきたのがつちや 大垣の銘菓である。特に看板商品である「柿羊羹」は、竹の器に流し込まれた独特のスタイルと、凝縮された柿の甘みで知られ、今や国内外の観光客にとって外せない岐阜土産の代表格となっている。
温暖化に立ち向かう「堂上蜂屋柿」の未来と持続可能な調達

柿羊羹の命とも言えるのが、地元産の「堂上蜂屋柿」だ。しかし、近年の平均気温上昇は容赦なく果実の生育に影響を与えている。つちやは地元の契約農家と密に連携し、スマート農業技術を導入した。気温監視センサーを用いた最適な収穫時期の予測や、土壌管理のデジタル化により、伝統の味を守るための原料確保に奔走している。単なる仕入れ先と買い手の関係を超えた、地域農業のセーフティネットとしての役割がそこにはある。
伝統の「竹容器」が語るプラスチックフリーへの先進的アプローチ

つちやの柿羊羹といえば、半分に割った天然の真竹に羊羹を流し込んだ佇まいが美しい。この伝統的なパッケージが、2026年の今、究極のエコデザインとして再評価されている。プラスチックゴミ削減が指針となる遥か昔から、彼らは自然に還る素材を使い続けてきた。竹林の整備から切り出し、加工に至るまで、地域の里山保全活動と直結したこの取り組みは、SDGsという言葉が生まれる前からの「当たり前」だったのだ。時代がようやく彼らの哲学に追いついたと言えるだろう。
「水の都」大垣の自噴水が育む、極上の口溶けと職人技

大垣市は、豊かな地下水が湧き出る「水の都」として名高い。つちやの和菓子作りにおいて、この水は主役そのものだ。雑味がなく、まろやかな自噴水を使用することで、小豆の風味や柿の繊細な甘みが極限まで引き出される。気候や湿度によって毎日表情を変える餡(あん)を練り上げるのは、長年の経験を持つ職人の勘だ。機械化が進む現代にあっても、手の感覚だけが知る最適な「練り加減」が、あの滑らかな舌触りを生み出している。
Z世代を魅了する「ネオ和菓子」への大胆なシフト
「和菓子は年配の人のもの」という固定観念を、つちやは軽やかに打ち破る。SNSで瞬く間に拡散されたのは、まるで宝石のように輝くカラフルな創作和菓子だ。伝統的な技法をベースにしながらも、ハーブやスパイス、洋菓子のエッセンスを取り入れた新商品は、若い世代の心を掴んで離さない。ビジュアルの美しさだけでなく、低カロリーでヘルシーという和菓子本来の強みを前面に押し出したマーケティングが功を奏している。
インバウンド2.0時代における地方発ブランドのグローバル戦略
日本を訪れる外国人観光客の目的地は、東京や京都といった大都市から地方へとシフトしている。つちやでは、多言語でのストーリーテリングに力を入れ始めた。ただ菓子を売るのではなく、その背景にある歴史や、日本の美意識を伝える体験型ワークショップを本店で開催。これが欧米からの旅行者に大ヒットしている。日本の地方都市にある一軒の和菓子店が、世界と直接つながる時代が到来したのだ。
270年の歴史が紡ぐ、地域コミュニティとの新たな絆
どれだけ世界に名を馳せようとも、つちやの根底にあるのは大垣市民との強い結びつきだ。地元の小学校での和菓子作り体験や、地域の祭りへの積極的な協賛など、その活動は多岐にわたる。「おじいちゃんの代から、お祝い事にはつちやのお菓子があった」と語る市民は少なくない。歴史とは、単に古いことではない。地域の人々の記憶に寄り添い、共に歩んできた時間の積み重ねこそが、このブランドの真の価値なのだ。 (出典: つちや 大垣(Yahoo!ニュース))