救急医療の崩壊を防ぐ「最後の砦」へ——志賀隆教授が挑む、2026年救急DXの現在地
志賀 隆(国際医療福祉大学医学部救急医学教授)の眼差しは、常に日本の救急医療の最前線に向けられている。医師不足、高齢化による救急搬送数の激増、そして「救急車たらい回し」と呼ばれる搬送困難事案の頻発。かつてない危機に瀕する日本のER(救急外来)において、彼の存在はシステム改革の精神的支柱となってきた。
2026年現在、AI技術を融合した新たなトリアージシステムの全国展開が進む中、志賀 隆氏が提唱する「教育とテクノロジーの融合」が現場の医師たちに希望を与えている。単なる効率化ではない。命の選別を迫られる極限状態の現場で、いかに医療者の燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぎ、患者の生存率を最大化するかという本質的な問いが、今まさに形になろうとしている。
2026年の救急医療が直面する「限界点」

超高齢社会のピークへと向かう日本で、救急車の出動件数は毎年過去最多を更新し続けている。現場の医師や救急隊員は疲弊しきっており、システム全体の制度疲労は隠しようがない。特に地方都市における救急医療体制の脆弱化は深刻だ。
こうした状況下で、ただベッド数を増やしたり、医師の労働時間を延長したりするだけの従来型の対策はすでに限界を迎えている。現場に必要なのは、限られた医療資源を最適に配分するための「知的なインフラ」である。この課題に対して、実践的なアプローチで風穴を開けようとしているのが、救急医学の第一人者たちだ。
AIトリアージと「人間の直感」の融合
近年、救急現場へのAI導入が急速に進んでいる。バイタルデータや患者の主訴を瞬時に分析し、重症度を判定するシステムは、確かに初期判断のスピードを飛躍的に向上させた。しかし、テクノロジーが万能訳ではない。
データ数値には表れない「患者の顔色」や「呼吸のわずかな違和感」を察知するのは、長年の経験に裏打ちされた人間の直感である。AIの提示するデータと、臨床医としての直感をいかに調和させるか。このバランスの最適化こそが、現代のERが求める究極のスキルと言える。
医療現場のバーンアウトに立ち向かう教育イノベーション
救急医療の現場を去る若手医師の後を絶たない。その最大の原因は、過酷な勤務体系だけでなく、常に生と死の境界線に立たされる精神的プレッシャーにある。教育の現場では今、技術的な指導だけでなく、メンタルヘルスケアを含めた包括的なサポート体制の構築が急務となっている。
シミュレーション医療教育の普及は、その解決策の一つだ。失敗が許されない本番の前に、リアルな模擬環境で何度も失敗を経験し、チームでのコミュニケーションを学ぶ。このプロセスが、若手医師の不安を和らげ、現場でのレジリエンス(復元力)を育む土壌となっている。
「断らない救急」を実現するための地域連携モデル
一つの病院だけで救急患者をすべて受け入れることには限界がある。地域全体を一つの大きなERとして機能させる「広域連携ネットワーク」の構築が、2026年の大きなトレンドだ。
近隣の医療機関がリアルタイムで病床の空き状況や専門医の当直情報を共有し、最適な搬送先を瞬時に決定する。このシステムが機能することで、特定の救急救命センターへの患者集中を防ぎ、搬送時間の短縮と救命率の向上を同時に達成することが可能になる。
志賀隆が描く、日本の救急医療の未来図
医療は人が人を癒す営みであり、どれだけ技術が進歩してもその本質は変わらない。テクノロジーは医師の負担を減らし、患者と向き合う時間を創出するための道具に過ぎないのだ。
次世代の救急医たちに必要なのは、最先端のツールを使いこなす知性と、目の前の患者を救おうとする泥臭い情熱の両立である。日本の救急医療が崩壊を免れ、世界に誇るセーフティネットとして機能し続けるための挑戦は、これからも続いていく。 (出典: 志賀 隆(Yahoo!ニュース))